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最後の30代

最後の30代がはじまった。

2年前に急逝した父は、帝国ホテルに生涯勤めて常務取締役に。引退後は帝国ホテルキッチンの会長として晩年を過ごす矢先のことだった。父と同じだけ生きられるとしたらオレは残り28年。とうに折り返しは過ぎている。

父が日本のクラシックを象徴とするようなホテルに勤め続けて毎日スーツを着て仕事に行っている傍ら、オレはほとんど才能に感けた日々を30年間過ごしてしまった。正す襟もないような状態からこの数年、かろうじて背広に身を包みながら不惑に挑む。

尊敬する赤峰先生や、フォトグラファーの諸先輩方、ビジネスの先達方から帝国との思い出話を聞いたり、フォトグラファーとして芸能の方々を撮影させていただく機会にあたって帝国の宴会場に足を運んだりとする経験を重ねることでようやく、父の仕事とその重みが現実味を帯びてきた。そんなことにも無関心で歳を重ねてきたのかと恥ずかしくなると同時に誇らしくもあった。

昨年末、ようやく胸を張って自分の力で訪れた嘉門。背広一着引き換えともいえるような価値をした料理を前に父や周りの人たちが何を背負ってはたらいていたのかを垣間見た。

30を越えてからではあるが、写真という機会を挑戦に変えて、オレも何かを背負えるようになってきただろうか。進んで逆境に身を置きはじめ、衰退する市場ならばこそと、身体を預けながら何を選択して何を捨てて生きていこうか。

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