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写真展 GO BEYOND に寄せて

本日より、全国どこでも楽しめるバーチャル型写真展 GO BEYOND が開催されます。

11月末の告知からきっかり3週間を経て、ようやくサイトをリリースすることができました。

GO BEYOND というのは写真展名。ウェブサイトはGALLERY MEDICIISMと言います。Google Pixel と XICO のコラボレーションで実現したオンラインギャラリーで、9名のフォトグラファーが出展する写真展になっています。

情報設計を無視したページ構造、高画素大画面の時代とは逆行して小さい写真、デジタルなのに少ない展示者数。いろいろ突っ込みどころのある構成です。

カメラで言ったら、AFはもちろん、瞳AFもあって動画もとれてライブビューも可能なチルトモニタなど機能盛りだくさん全盛の時代に Leica M を使っているような構成です。でも何故そうしているのか、そんな思いや背景、今回の展示にかける意気込みなどをご紹介させていただければと思います。

開催の経緯

今回、ヒーコの代表という立場でもありますが、このプロジェクトはクリエイティブディレクションやプランニングなど大きく関わらせていただいて、個人的な昨今のSNSフォトグラファーシーンへの思いやこういった仕事に携わらせていただいて感じていることなどを存分に込めさせていただいたこともあり、個人的にはめずらしく、気持ちのこもった一つの作品となっているのでこの機会にいくつかこの場を借りてこの企画に対する思いをお伝えできればなと思います。小説にしたら上中下必至で読み終わる頃には季節が変わりそうなボリュームになるかもしれませんが少しお付き合いください。

基本的に自分はヒーコ社内だとプロデュースやマネジメントに回ることが多く、自らディレクションに入ることはもう殆どなくなっているのですが、このプロジェクトだけは最初から自分の意志が色濃く投影されていることもあってクリエイティブディレクションに入っています。

プロジェクトのきっかけは、Googleさんとのご縁の中で、ヒーコを通してクリエイター支援が行えないかというオファーをいただいたことからはじまっています。

オンラインギャラリーへの抵抗

結果、オンラインギャラリーという形に決着したわけなのですが、実は自分はオンラインギャラリーやグループ展自体にはあまり興味関心を抱いていませんでした。何度かそういったプロジェクトのお声掛けをいただいたこともあったのですが、既にやっている会社も団体も多数ありますし、あえて我々がやる必要性や納得感のある方法も思い浮かばなかったんですよね。

革新的なオンラインギャラリーと聞いて想像できるのは、ゲームの3D空間を模したようなマウスやトラックパッド操作でその場にいるかのように移動しながら写真を選択して閲覧するようなバーチャルスタイルや、大人数のポートフォリオサイト形式でサムネイルのようにフォトグラファーと写真が掲載されていてポチポチ押しては戻るボタンを繰り返して写真をめくっていくような形式です。(そういうものを期待していた方がいたらごめんなさい。)

それ自体は良いと思うのですが、どうしても往年のバイオハザードを想起させるし、情報として見やすいものを求めているわけではなく、体験するものだと思っているので、個人としても会社としても行動にうつすまでの熱量はもてませんでした。

他の人たちがやっているのであれば、そういった取り組みに興味のあるフォトグラファーも困っていないわけですし、ヒーコのような弱小企業がわざわざ少ないリソースと予算を割いてやる必要もないかな〜と。

出展者をあつめてインプレッションはあつめられるかもしれないけども、それがフォトグラファーにとってハッピーなことなのか、ヒーコにとってハッピーなだけで終わらないかという疑問も拭えないし。

じゃあなんでやることになったの?と言えば、Google さんのご厚意と、ヒーコ主導で進めてよいということ、コロナ禍というシチュエーション、それらの点を繋げるこのコンセプトがうまく噛み合ってしまったのです。

それが GO BEYOND というキーワードに落ちるまでは少し時間もかかりましたが、それなりに納得のいくプロジェクトになりました。

何故、心動いたか

ヒーコのミッションは、「ココロがうごかすコトづくり」というものです。「人々の心を動かすんじゃなくて心が動かすの?」という疑問もあるかもしれませんが、これは常にクリエイターサイドにいたいという我々の所信表明でもあります。つまり、我々作り手が心動かされることをやっていこうという覚悟です。

作り手として心から価値のあると思うことを提案していきたいし、やっていくことがミッションですし、与えられたからという理由で単に技術や知恵をつかって消化していくような仕事はやりたくないのです。

その意味で、まさにこのプロジェクトは心が動かすプロジェクトでした。

まず私たちが Google さんはじめとするステークホルダの皆さまに最初ご提案したのは、今思えば本当にごめんなさいという状態なのですが、ざっくりいうと「バズは狙わず、フォトグラファー、それもSNSとビジネスを横断するような新世代の人たちにとってハッピーな取り組み」というコンセプトでした。

フォトインフルエンサーのような人たちを巻き込んでバズを狙っていくのではなく、SNSにも軸足を持ちながら商業の世界でも活躍している、もしくはこれから活躍していこうというキャリアを地でいっている人たちを極々少数お声がけして刺さる人には深く刺さる、SNSのフォトクリエイティブシーンを歩む多くの人たちにとって「おっ」と思ってもらいたいというコンセプト。

今回出展していただこうというフォトグラファーは、実績もあって現在もなお成長中の人たち(黒田をのぞく)、中途半端なプロジェクトに巻き込んでしまっては彼らのブランディンを毀損することにもなってしまうわけで、それはヒーコが目指すハッピーとは違いますし、フォトグラファー支援ではなく企業のプロモーションにフォトグラファーを巻き込んだだけの形になってしまいかねない。

クライアントワークに徹しすぎるとそういうことに得てしてなりがちなので広告業界というのは少なからぬ報酬を得てビジネスが成り立っているわけですが、このバランスを保つのが難しいことは目に見えてました。

そうこうして最初のご提案に軸足をおいて、更に鑑賞体験をこだわり、優秀な企画にすることができればフォトグラファーへの価値とつながる写真展にすることができると考えたわけです。

制作資金を提供してもらいつつ、まがりなりにもスポンサードされているような立て付けでありながら、そんな初っ端から「ニッチなとこ狙ってプロモーション要素低めでいきたいです」みたいな面倒くさいこだわり感出してしまって今思えば本当にごめんなさいという形なのですが、快くご了承いただきました。(まぢ?)

こうして我々は制作資金とリソースの殆どをウェブサイトの設計と構築、そして作品制作費用にかけまして広告費用ゼロ円みたいな予算の使い方をしたまま(本当にごめんなさい)、走りきってしまいました。

こんなわがままを許していただけるのであれば、もうとことんそれでいこうと。一気にテンションあがってしまいまして、無難にこなして終わりという道もあったのですが、一人ひとりのフォトグラファーの方に直接お声掛けして小一時間主旨とコンセプトをご説明させていただいて、今回の展示を実現する運びとなったわけです。

フォトグラファーらしさをハゲるまで考えた

以下は、今回の展示に寄せた一文です。

フォトグラファーにとって、撮ることと発信することはいつの時代も表裏一体でした。

コロナ禍に起因する未曾有の時代に突入してから早19ヶ月。
ウィズコロナやニューノーマルといったキーワードに、様々な行動様式を世界が模索していく過程でフォトグラファーの活動にも各人各様の変化が訪れ、コロナ禍によって失われたモノを取り戻そうという活動もこの二年弱の間に数多く行われてきました。

本来、フォトグラファーにとってその制作が結実する場であった写真展もその一つです。

今回、ココロが動かすコトづくりをミッションに事業活動を通してクリエイターと受け手双方の幸福を追求する株式会社XICOと、あなたらしさに寄り添うことで一人ひとりの個性と向き合いクリエイティビティを尊重する Google Pixel のコラボレーションが実現。

ソーシャルメディアやデジタルコミュニケーション時代フォトグラファーシーンで活動する9名のフォトグラファーによるギャラリーを開設することになりました。

"未曾有の時代であってもその現実を受け止めて自分の視点を持つことがフォトグラファーという生き物ではないか。

リアルにはリアルの、バーチャルにはバーチャルの視点があり、そこに正解はない。一つの被写体を前にした時、人々の心を動かす一枚になるのか、何の変哲もない一枚にしかならないのか、撮る人によって変わるのが写真。

目の前の現実を受け止めて、発想や見せ方を工夫することで心に残る一枚にできるのがフォトグラファー。

何の変哲もないウェブサイトでも発想や見せ方を工夫することが心に残るギャラリーに繋がればフォトグラファーらしい取り組みになるのではないか。"

そのような発想から生まれたギャラリー。一人でも多くの方に「おっ」と思ってもらえるような場となることを祈って。

https://gallery.mediciism.com/about/

言いたいことは基本的にこの中に詰め込まれているのですが、よくわからない文章なのでいくつか補足をします。

自分がオンラインギャラリーやグループ展に興味関心を持てなかった理由を深く掘り下げてみると、その大きな因子の一つにコロナ禍によって失ってしまったオフラインという機会を代替しようという印象が拭えなかったからになります。

一方、自分の考えるフォトグラファー像というのは、失ったものを代替するのではなく、目の前の事象を受け止めて自分なりのクリエイティビティを現実にぶつけるような姿勢でした。

震災で丹精込めて作り上げられたであろう建築物が倒壊していても、それを撮影してレタッチしながら復元するようなフォトグラファー像は思い描いているものとは違います。おそらく目の前の現実をありのまま写していくのではないか。おそらく倒壊した建物の中に希望を感じるような瞬間を求めていくのではないか。そういう現実を GO BEYOND していく姿にフォトグラファーらしさを感じるんですね。

こうしてコロナ禍という未曾有の状況と、この機会と、コンセプト。それら3つが絶妙なタイミングで歯車が噛み合い、自分の中で繋がったのです。

同じ状況でフォトグラファーと一般の人が写真を撮り比べても、おそらく素材や方法は同じなのにフォトグラファーの作品が心に響く確率はきっと後者よりも高いだろうと思います。(そう信じたい)

我々も、普通のウェブサイトを作るという行為で、素材や方法は同じだけども何故か心に響く、そういうウェブサイトを目指しましたし、そこに価値があるように感じました。

こだわりのポイント

ということで何の変哲もないウェブサイトではありますが、こだわりのポイントはいくつかあります。これ偉そうに語りますがウェブディレクターとデザイナーとエンジニアの方の努力の賜物です。いろいろ面倒なリクエストばかりすみませんでした。

鑑賞体験をシンプルに
サイトを見ていただくと、鑑賞の操作は基本的にスクロールとタップだけで完了します。いえ、むしろ一度タップしてしまえばスクロールのみで終わります。これはPjaxというテクニックを活用してスクロールをしていくだけでリロードなしでページ遷移が行われていく仕組みです。

個人的に毎回戻るを押したりカーソルを動かしてクリックをしたりすることで次のページに飛んだり、サムネイル表示されることで一覧で写真が見えてしまってワクワク感を失ったりするのがあまり好きではありません。展示会場で、一歩ずつ歩を進めながら次は何が出てくるのだろう?と体感しながら進むことが好きなのです。

逆に、サムネイルの中から気になる写真だけを選んだり、誰々の何枚目みたいな選び方をしたりということはできません。できないようにさせています。現実に写真展をいくときにもう一度見たいと思ったら好きな写真の前にワープできるわけではないからです。GALLERY MERDICIISMは便利じゃなくて良いのです。

マイクロインタラクション
スクロールやカーソルなどの動きにマイクロインタラクションをつけることで、クリックやタップなどの動作に飽きがこないようモーションやマイクロインタラクションが発生するようになっています。

前述のPjaxによりリロードが殆ど存在しないので、遊び心を加えています。

このあたりは大きなディレクションしてないのですが信頼のデザイナーによって実現しました。

静的サイト
マイクロインタラクションやモーションやPjaxによる読み込みなどを兼ねていたり、ウェブフォントを活用していたり、サイトが重くなる為の事は全てやっているみたいな状態ですので、基本的にサイト自体は本来重いです。

バックエンドは Wordpress というよくある仕組みで動いているので、ダイナミックにDBへのリクエストが発生したりも本来はするのですが、Jamstack という仕組みを活用して、Wordpress のようなダイナミックなCMSから全て静的ファイルに書き出して最大限軽量化をはかっています。

これによって、考えうる限りもっとも軽量な状態になっており、更に超絶セキュアという状態を実現しています。(バージョン管理もかんたん)

額縁と壁
自分は、展示するなら額装というのが一つこだわりとしてあります。断ち落としなども良いと思うのですが、あれはリアルな空間だからこそ成り立つのであってウェブサイトに額装もなく写真が貼ってあったら単純なHTMLに見えちゃいます。写真展なので、やっぱり額装したい。

ということで、現実では展示し得ないような壁に額装で一枚ぽつんと展示するという、リアルで行うには自分の場合だと人生100回くらいやり直さなければならないようなシチュエーションを模したデザインにしました。

誤解を恐れずに言うならば、美術館にぽつんと展示されている一枚を、程よい距離から座って眺めるようなシチュエーションです。

なので、贅沢にネガティブスペースを用意しています。写真を大きく見たい場合には、なにもこのサイトではなく、写真集を買うようなイメージで是非その方のポートフォリオやSNSに飛んでいただいてゆっくりご鑑賞いただけると嬉しいです。

デスクトップとスマホ
サイトは、レスポンシブにデスクトップとスマホ対応しています。デスクトップでみたらよい感じだけどスマホでみるとあれ?というサイトが未だに多く、特に写真は縦だったり横だったり構図も変わり、写真がおいてあるのか飾られているのかよくわからないといったケースは好きではありません。

写真だけを拡大してみたいなら良いかもしれませんが鑑賞体験として「おっ」と思えるものにはあまり出会えたことがありません。今回は、スマホでもユーザー体験が大きく変わらないようケアしています。ただし、スマホの場合、ネガティブスペースの関係もあるので縦表示でのみ鑑賞可能になっています。

シェア
あ、これはこだわりポイントではありませんが、作品についてはシェアボタンを用意したので、特定の作品について語って頂ける場合は是非シェアボタンからコメントなどをいただけると嬉しいです。

スクショをとっても絵になるように配慮しているので、是非お気軽にスクショも取っていただいて、インスタグラムのストーリーズなんかにご投稿いただけると嬉しいです。

Google Pixel 展
今回コラボレーションしてくださっているという点もそうですが、まさにスマホカメラシーンにおいて GO BEYOND を地でいっている Google Pixel のカメラ機能。これほんとに展示をみていただくと自分以外のフォトグラファーの作品がやばすぎてびっくりすると思いますよ。スマホでこれ撮れるの?ってもう意味不明なんですよ。時代は変わったなと強く思います。スポンサードかどうかは関係なく、コンセプトも写真もそこにいて違和感がないんです。恐ろしいですよね。恐ろしいです。本当に恐ろしいカメラです。いや、スマホでした。

まとめ

思いの丈を徒然夜中に書きなぐっていたら予想通りとんでもないボリュームになってしまいました。また、偉そうに書いていますが実際自分がこの展示で力になれている部分は1%にも満たない程度です。

あえて名前は伏せますが、この素敵なプランを授けてくださったプランナーの方、アカウント担当の方々、明け方まで忌憚なき議論を交わしてくれたデザイナーの方、ギリギリまでフィードバックを修正してくだったフロントエンドエンジニアの方、慣れない Jamstack 対応などにもサポートしてくださった方、そして何よりも業務に追われながらも泣きながらお菓子を食べてるヒーコスタッフ、今期入社なのにいきなり大役を任されつつデザインまでやっちゃうわんこ、マルチに活躍しすぎてもはや何者かよくわからないBBQ検定保持者。そしてもちろん、快くこのプロジェクトを進めさせてくださった Google Pixel をはじめ Google のみなさまと代理店のみなさま。

これまでの全てに感謝をしすぎてネテロだったら命投げ出してるレベルの3ヶ月でした。

サイト自体は、最低でも一年ほど公開されている予定です。このサイトがきっかけで、出展者の皆さまのお仕事につながったり、一見順風満帆にみえるフォトグラファーの苦悩も知っていただいたり、それを励みにしたり写真をまっすぐ見つめる方が増えたら嬉しいな、と思います。

自分は、SNSにルーツを持つフォトグラファーですが、商業という文脈でも活動することができるようになり(活躍とまでは言えませんが)、横断的に行き来している方だとは思いますが、これまでにたくさんの壁にぶつかり、いつのまにか嫌われていたり、意味もなく見下されたり、同じように応援してもらったり、褒めてくれるような人がいて、絶妙なバランスの中で今があります。一応それなりに写真が好きなので今に至るわけですが、かんたんな道のりではありませんでした。壁にぶつかってはぐちゃぐちゃにはじけとび、たまに乗り越えられるということの繰り返しだからです。

なので、一つ言えることは、いま写真という意味で壁にぶちあたっている人がいても、それはきっと乗り越えられる壁だと思うのです。たぶん。わからないけど。そうであってほしい。おねがい。

なので、ぜひ GO BEYOND していただければと思います。

最後にこの展示を実現にするにあたって自分の心の片隅で、常にゆらゆらしていた言葉があります。

「高くて硬い壁と、壁にぶつかって割れてしまう卵があるときには、私は常に卵の側に立つ」

村上春樹のエルサレム賞受賞スピーチ「卵と壁」より

有名なスピーチからの引用ですが、興味ある方は是非全文を読んでみてください。Google という検索サービスがおすすめです。また、奇しくも出展者の一人である別所隆弘さんが展示作品のステートメントの中で、同じく卵と壁について触れていました。コンテクストは異なりますが、さすがのシンクロ率200%です。

よかったら皆さんの #私と写真の軌跡 も聞かせてください。展示前夜の殴り書きでした。

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Akiomi Kuroda / 黒田 明臣
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