フォトグラファー2.0を知る5つのキーワード
前回、フォトグラファー2.0ということと、その特徴について書きましたが、今度はそのキーワードについて。実はこれは三部作予定で書いていて、フォトグラファー3.0ということを語ることができるようになるまでまとめようという意識で書きました。ドラフト版です。ヒーコの方には、清書してシンプルにしたものを後悔してるのですが(大幅に削ってる)、こちらはその草案に近いものです。せっかくだしボリュームもあるので公開しようかなという試み。
前回のドラフト記事はこちら。
基本的にヒーコの方はマイルドに、こちらは購読者向けのマガジンということもあり、少し過激です。あたりさわりなくよまれる方は是非ヒーコへ。
では、以下。
平成最後の残りの人生最初の一日を如何お過ごしですか。死にかけのロブスター。フォトグラファー3.0 黒田明臣 @crypingraphy です。前回は、フォトグラファー2.0の時代ということで、その特徴や1.0との比較なんかをつらつら書いてみましたが、今回はもう一歩突っ込んでテクノロジーと調和するためにどうすべきかというのを5つのキーワードと交えて書いてみようと思います。
目次
・フォトグラファー2.0の特徴
・フォトグラファー2.0を知る5つのキーワード
・ティッピング・ポイント
・スタイル
・メディア
・錯覚資産
・マルチコミュニティ
フォトグラファー2.0の特徴
フォトグラファー2.0の時代という記事では、7つの特徴をまとめました。
SNSやインターネットの活用
スタンス
クロスボーダーな活躍
インフルーエンスからムーブメント
提示からコミュニケーションへ
オンラインとオフライン
ネットワークの多様化
フォトグラファー2.0としての特徴として備えたい人、つまりこれからSNSやインターネットを運用したい人や、逆に2.0的な動きはせずに1.0として硬派に運用していきたい人は、まず2.0をより深く知る必要があるかなと思います。
詳細は記事を見ていただければと思いますが、今回はこれらの特徴を備えるためにどうすればよいか、逆に2.0に染まらないためにはどうすべきかを書いてみます。
フォトグラファー2.0を知る5つのキーワード
ティッピング・ポイント
一つは、ティッピング・ポイント。これは小さな変化が大きな変化を生み出すポイントを指します。小さな変化を繰り返していた物事が、突然急激に変化する時点(ポイント)であり、臨界点のようなものですね。
同名の本を出版したマルコム・グラッドウェル氏によれば、ティッピング・ポイントとは、「力の作用によって一定のリズムで予測可能に変化するような直線的な現象ではなく、急激かつドラマチックに方向を変えるような現象であり、非直線的である」そうです。
SNSの世界では、まあ例外は大いにありますけど、このティッピング・ポイントというキーワードを体感する事例が数多く存在します。
これが示唆しているのは、小さな変化に比例した積み重ねが直線的にリターンとなるわけではなく、ある日突然、劇的な変化が非直線的に訪れる可能性が高いということです。そして結果が期待通りかどうかはともかく、小さな変化を繰り返し続けなければそのポイントは訪れないという点もポイントです。つまり、効率にとらわれることなく活動し続けるということが大切だということです。
例えば、「一秒に倍ずつ増えるウイルスが、5分後には100億個に達するとして、その半数に至るのは何分時点か」という問題があったとして、答えはいくつだと思いますか?
正解は4分59秒です。単純に半分と考えて、2分30秒と答えてしまう人が多いそうですが(マジ?)、前述の通り、一秒に倍増えるということは、100億の半分である50億個に達するのは、一秒前の4分59秒ってことですね。これは直線的な例ですが。
いつか、SNSを続けてフォトグラファーとして花開くティッピング・ポイントが3年後に訪れるとしたら、その一秒前まで価値や認知や評価は半分にも満たないかもしれないのです。どうですか?そう考えると途方もないようにも思えますし、同様に継続することの大切さを感じませんか。自分は感じます。
Chance favors the prepared mind
「幸運は用意された心のみに宿る」フランスの細菌学者ルイ・パスツール氏の残したセリフにもありますが、いつか訪れるかもしれない成功は、暗闇で努力し続けた一秒先かもしれない。そうするともうやるしかないなって思います。
スタイル
もう一つはスタイル。この文脈におけるスタイルの対義語は、おそらくマーケティングです。SNSやインターネットの活用、コミュニケーション、スタンス、さらに言えばコンテンツ、つまりポストする写真ですね。これらを安易にマーケティングしてはいけないということです。
正確には、マーケティング徹底できるならしてもいいけど、それでいいの?しかも面倒だよたぶん。というところです。
マーケティングすることで定量的な結果はある種、簡単に手に入れることはできるかもしれないし、加速させることはできるかもしれない。ただ、それをアレコレとマーケティングしていくというのはおそらく多くのフォトグラファーにとって労力だと思います。
これを労力とせずに、ナチュラルに実践することができる人も数多くいますが、その人たちは既にフォトグラファー2.0として活動して、2.0的な成功をしていると思います。いまそうでないと自覚する人たちがいま1.0としてクラシックな世界観を守り続けることができているのは、ポジティブな意味でマーケティングできないからなのだと思います。
ただこれもフォトグラファーはマーケターではないので、当然です。優秀なプレイヤーが優秀なマネージャーであるとは限らないように。
さらに、これはティッピング・ポイントの話にもつながりますが、例えば成功の一秒前までブランド価値が半分でしかないのだとしたら、ティッピング・ポイントが訪れるまで如何に退屈だろうかということです。
これは期待値コントロールの話になりますが、成功を目指してSNSを運用し続けるというのは、明確につまらない仕事です。楽しめないとつらい。しかも一つ一つレンガを積み上げてゴールに近づいていることが確認できるような直線的な仕事ではありません。
暗闇の中でよく知りもしない念仏を唱えながら一歩前に進むたびにチクチク痛む足場を裸足で歩いているようなものです。しかもいつゴールが訪れるかもわからない。普通に気が狂います。
だから、マーケティングではなく、スタイルとしてやらないといけないと考えています。
例えば自分の場合を振り返っても、マーケティングということにはこだわってやっていませんでした。全くやっていなかったとは言いませんが、最小限の労力にとどめています。仕事になってしまったらおもしろくないからです。楽しく仕事するスキルを持っているのにサンドイッチ班ピクルス担当みたいな延々ときゅうりを二枚サンドイッチにはさみ続ける仕事をしたいとは思わないですよね?オレには無理です。
なので、スタイルとしてやるということを最初から決めていました。
スタイルとしてやるということは、自分のやりたいことの延長としてやるということです。
やめろと言われてもやめられない、好きで続けていることは、写真を撮るということだけ。なのでせめて、最低限の労力で、撮った写真をできるだけ多くのところで発表するスタイルにしました。
マーケティングして、バズりそうな写真とか、バズりそうなレタッチとか、人気のモデルとか、人気の撮影ポイントとか、そういうところに寄せたりわざわざ労力を割くことはしない。これが継続させるために必要な条件でした。
一部のマーケティング超人をのぞけば、スタイルとすることは大きなポイントになるだろうと考えています。
メディア
フォトグラファーとして作品を発表してある程度のフォロワーが増えてくると、写真の仕事が増えたり写真の評価があがったりするように思われているケースも多いようですが、それはフォトグラファー2.0として前にいる人々の中でもごく一部の、コンテンツとマーケットと両者のブランドがマッチした例が中心です。従来の意味で、業界としてフォトグラファーとして評価されるということはおそらく殆どないでしょう。むしろ業界によっては同業からマイナス評価で見られる可能性すらあります。
代わりに、フォトグラファー2.0は、業界における好意的評価というよりも、個人メディアとしての評価は大いに得ることができます。これはいわゆるインフルエンサー化であり、世の中のインフルエンサーマーケティング市場に仲間入りしたとも言えるかもしれません。
これをフォトグラファーとしてのブランドとして活用できるかどうかはその人次第ですが、おまけとしてこういう側面が増えて、さらにそれがおまけでは済まなくなってきます。
フォトグラファー2.0としてうまくやっている人というのは、SNS上のアカウントと個人の感情に折り合いをつけてこのあたりのコントロールを上手にやっていく必要があります。
錯覚資産
人生は運よりも実力よりも「勘違いさせる力」で決まっている。というふろむだ先生著による昨年のベストセラーで提唱された錯覚資産。これらもフォトグラファー2.0を理解する上では切り離せない概念です。
例えば一つ突出したポイントを持っている人には、錯覚資産が働いてその他のアウトプットに対してもポジティブな評価が働くという点です。
つまり、写真が上手であるということと、その人の発言に正当性があるかどうかに因果関係は殆ど存在しないにもかかわらず、「写真が上手だと言ってることも説得力があるように見える」と言ったハロー効果が錯覚資産の代表例です。(すごく雑に解説すると。)
興味深いのは、この錯覚資産はフォトグラファー2.0よりもフォトグラファー1.0に対して強く働いているケースが少なくないという点です。
例えば、SNSを殆ど活用していないスタイルでフォトグラファー生活40年というプロカメラマンがいたときに、その人が一度でも誰かがうらやむような仕事をした場合。SNSというパブリックなメディアを持たないアンノウンな40年という歴史全てがおそらく輝かしいものに見える錯覚資産が働くだろうということです。
この点、逆にSNSを活用しているフォトグラファー2.0の場合は、メタ推理を働かせた場合には錯覚資産がレガシーな運用に比べて働かないケースも考えられます。何故なら、パブリックな情報量はSNS利用者のほうが多いからです。
ただ、前述のスタイルのキーワードではないですが、マーケティング上手なフォトグラファーであれば、これを実物以上に見せることも難しくはないでしょう。
そういう意味でも、錯覚資産というキーワードを理解することは大切。
ちなみに、錯覚資産というのは言葉の印象があまりニュートラルではないように感じますが、誰もが持つもので避けて通ることはできないモノだと文中では書かれています。この語感によるバイアスも錯覚と言われそうなレベルです。
マルチコミュニティ
フォトグラファー2.0では規模の大小はともかく多くがコミュニティに所属して、しかもそれが複数に並行していることも少なくありません。そして、人によって依存の度合いに大きな開きもあります。
このマルチコミュニティというキーワードはNews Picks の2019年メガトレンドの一つとも書かれていますが、フォトグラファー2.0はしばらく前からその縮図が実現していると考えています。これは特にTwitterやInstagramを中心としたタグ文化からはじまるムーブメントなどが影響しているように思います。
タグ文化では、ベクトルの同じフォトグラファー同士が集い、コミュニケーションを図り、加速し、広がり、細分化され、洗練され、統合されていくというような動きを繰り返していきます。
1.0が狭く深くシングルのコミュニティで活動することに比べ、2.0は広く浅く複数のコミュニティに所属していることがキーワードです。ここに対応できるかどうかというのが2.0的かどうかというポイントになるかもしれません。
さらに、「個人から分人へ」という考え方もマルチコミュニティを向かい合うためには頭の片隅にはおいておきたいアイディアです。これは、私とは何か「個人」から「分人」へ。という平野啓一郎氏の著作からはじまったトレンドのようですが、個人は首尾一貫した個人であるという考え方からコミュニティに応じて分割可能な分人であるという考え方へのシフトになります。
これはこれからのフォトグラファー3.0や、2.0の特徴であるクロスボーダーやネットワークの多様化とも密接する大切なキーワードであり、インターネットによってステータスを問わないつながりが縦横無尽に広がっていく中で無視できないアイディアでもあります。
Facebookで投稿の公開範囲を選べたり、Instagramのストーリーズに全体公開と親しい友人公開があるというのは、まさに分人主義をサービスレベルに落とし込んだモノと言えますよね。
例えば自分の場合は、写真家そしてプロとして先輩となる方々とお付き合いしながら自分なんかまだまだだなあと謙虚な気持ちに支配される一方で、自分の写真を追いかけてくれる方々に向けて、獲得した知恵やテクニックをお金をもらって教えるという行為をしながら過剰な謙遜は無礼だと考えていたり、その時その場にいるコミュニティそれぞれで異なる自分を抱えていて、それぞれ自己肯定する必要があるんですよね。
これはタグ文化とは逆に、ベクトルの異なるマルチコミュニティです。
さらに、SNS上では相互フォロワーへの想像力というのも無視できない力学が働く(ここ無視できる人間は強い)ので、個人と分人の間でブランド価値に落とし所をつけなければいけません。一つのメディアとなりうるSNS上では分人として振る舞うことがけっこう難しかったりして。
この課題は分人として振る舞うことよりも他者の分人主義を理解することにあるように思います。2.0的にコミュニティと接するということは、こういうインターネットならではのやさしい想像力が不可欠なように思います。
オンラインとオフラインと行き来する日常のフォトグラファー2.0にとっては、このマルチコミュニティにおける渡り歩き方というのがキーワードの一つですね。
キーワードはあくまでキーワード
これらのキーワードはあくまでキーワードで。この情報をどう活かすかは、各々のスタイル次第だと思いますが、自分のブランディングに適したスタイルを見出すことがポイントかもしれないですね。
自分の場合は、マーケティングせずに、適当に、等身大でというのが一つのテーマであり、スタイルです。どうしても記事だと真面目ぶっちゃうんですけど。
では。また桜の咲く頃に。
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